「ひと」Cheer!! 〜 「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜

<Cheer !!〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>

vol.12 –株式会社花鳥風月 代表取締役 佐藤勇太さん

「食の都庄内」を支える若手料理人やスタッフ、生産者たちの人となりや想いを掘り下げ、庄内の“食”に関わる仕事の魅力をお伝えするシリーズ、<Cheer !!(チアー)〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>。
第12弾の今回お話を伺うのは、「酒田ラーメン 花鳥風月」の創業者である佐藤勇太さんです。
 
佐藤さんは24歳で「酒田ラーメン 花鳥風月」を開業。現在は県内に系列店を含む5店舗を展開すると同時に、「酒田のラーメンを考える会」や山形大学が中心になって進めている「庄内スマート・テロワール」の取組みにも参加し、ラーメンを入り口に酒田・庄内の魅力の発信に努めています。
 
今回はそんな佐藤さんに、花鳥風月を創業するに至った経緯や、自店のみならず酒田のラーメンや地域そのものの発展に根ざした取組みへの原動力などについてお話を伺いました。
 
※2024年1月に取材した内容となります。

 
◇20歳で突如ラーメンの道へ

1982年酒田市生まれ、酒田市育ち。幼少期から自分で料理を作る機会が多かったという佐藤さん。家族や友人に自分が作った料理を振る舞うこともあり、小学生の頃には既に「いつか料理人になって自分のお店を持ちたい」という気持ちを抱くようになっていたという。
 
ゆくゆくは調理師専門学校に行きたいと考えていたが、もしいつか心変わりして進学したいと思った時に、勉強をしておけば選択肢が広がるかもしれないと考え、自分の気持ちを試す意味を込めて高校は酒田西高等学校普通科へ進学。
その後3年経っても料理人になりたいという気持ちは変わらず、高校卒業後は東京にある華調理師専門学校へ入学した。当初は特に和食に興味があったが、いろいろなジャンルを深く学びたいと考え2年間総合科を選択。また、料理をする上でお酒もしっかり学びたいと考え、夜はバーテンダーとしてアルバイトもした。
「夜勤明けで専門学校に直行していたので、警備員さんより早く学校に着いて鍵が開くのを待っていましたね。」
と、佐藤さんは当時のことを笑いながら振り返る。
 
そんな東京生活も2年目にさしかかった頃、高校時代アルバイトをしていたラーメン屋「ワンタンメンの満月」の先代オーナー齋藤省吾さんから、うちで働かないかと声がかかった。満月は、大正末期に起源をもつ酒田のラーメンの歴史を引き継いだ、酒田随一の老舗だ。高校時代の担当は主に配膳で、先代とはご挨拶くらいしかした記憶がなかったので声がかかった時には驚いたが、いつかは酒田に帰ろうと思っていたこともあり、良いきっかけだと感じる。そして専門学校卒業後、20歳でラーメンの道に進むことを決めた。

◇外に出て知る酒田のラーメンの美味しさ

正直なところ、満月のラーメンは有名だが、酒田のラーメン自体がすごいとは思っていなかった。ラーメンは自分にとっては日常食で、何も特別なことはないと思っていたのだ。しかし、満月で働きはじめてからは全国にラーメンを食べに行く機会をもらい、次第に酒田のラーメンの魅力に気づいていった。
 
21歳の頃、外のラーメンをもっと知りたいと思い、栃木の佐野ラーメンの店で1年ほど修行をした。その後、再び酒田へ戻り、 “月系”ラーメン店(※)の「らーめん・つけ麺 新月」で2年ほど修行。24歳の時に新月の移転前の旧店舗を譲り受けて独立し、「酒田ラーメン 花鳥風月」をオープンした。「花鳥風月」という店名には、「酒田の自然は美しい」という意味と、“月系”のラーメン店であるという意味を込めた。
 
※ “月系”ラーメン…「三日月軒」や、「満月」から派生したラーメン店の通称。

◇順調なスタートから一転

若くして「自分の店を持つ」という幼いころからの夢を叶えた佐藤さん。“月系”の新店舗であること、そして、酒田にはじめて「海老ワンタンメン」を持ち込んだお店であることから、幸いにも最初からお店は賑わっていた。しかし、1年ほどするとその賑わいが徐々になくなり、その後しばらく苦しい思いをした。
「こんな時こそ、広告宣伝などにお金をかけるのではなく1人1人のお客様に対して美味しいラーメンを作って、口コミで広げていくしかないと思いました。妻、母をはじめ、家族総出でサポートしてくれました。」
真摯にラーメン作りに向き合った結果、5年ほどでようやく経営が上向きになり、スタッフも雇えるようになった。

 

「日本ご当地ラーメン総選挙」授賞式(上段右端が佐藤さん)

さらに佐藤さんにとって転機になったのが、「酒田のラーメンを考える会」との出会いだ。この会は、酒田のラーメンをこよなく愛し、もっと多くの人に食べてもらいたいと願う有志のラーメン店主が集まり1990年に発足。
酒田のラーメンは、魚介香る芳醇なスープ、ふわトロの極薄ワンタン、もちもちの食感が楽しめる多加水麺などが特徴だ。
メンバーたちの酒田のラーメンへの熱い想いに触れ、佐藤さんは徐々に“これを自分たちの代で絶やしてはいけない、次の世代に向けて取組みを広げていくのが自分たちの代の仕事だ”と思うようになったという。
 
「酒田はお寿司もお酒も風土も素晴らしいと思うし、その酒田のことを誇りに思ってもらいたい。我々は、ラーメンを通してその一助になりたいと思っています。」
と、佐藤さん。
そんな思いが実を結び、2023年10月に開催された「日本ご当地ラーメン総選挙」では酒田のラーメンが見事日本一に輝いた。

 
◇地域とラーメンのつながりが新たなイノベーションへ
現在佐藤さんが最も力を入れているのは、「庄内産小麦」の生産と活用だ。山形大学が中心になって進めている、地元の食材を使ってそれを地元で循環させることで経済の確立を目指すという「庄内スマート・テロワール」(※)という取組みがある。その中で、国内での需要が上がっているが輸⼊原料や肥料、飼料、燃油等の生産資材の国際価格が高騰している豚肉、大豆、小麦の三つの食材において加工メーカー・卸・小売などが一つのチームとなって商品開発などを行っており、佐藤さんは小麦チームのリーダーを担っているのだ。
 
最初は、「小麦があればラーメンを作れる」という気持ちでプロジェクトに携わりだしたという佐藤さん。スープや具材だけでなく、麺もオール庄内産で作れ、生産者との距離が近いことに魅力を感じた。そして次第に、この小麦を自分の店のラーメンだけでなく同業他社やパン屋さんなどに広げて行きたいという気持ちがふつふつと湧いてきたという。
 
「ただラーメンを作るというだけではなく、地域とラーメンがつながることで地域に新しいものを生み出したい。雇用の創出や文化の継承、インバウンド需要の拡大など、今までは点でやってきたものを面にすることで、業種を超えてイノベーションを起こしたりすることが今の時代求められているし、逆に言うと起こさなければいけないと思っています。それがすごくやりがいもあるし、使命感を持ってやっています。」
と、庄内産小麦のプロジェクトに対する意気込みを語ってくれた。

 
(※)庄内スマート・テロワールとは
農学部がある鶴岡市を中心とする庄内地域において、地域の風土を活かしながら、①耕種農家と畜産農家の連携により農畜産物を生産し、②農業者と加工業者が一体となって加工食品を製造し、③加工業者と地域の小売店が連携して地域内で販売し、④消費者が望む加工食品を地域に提供する、これら全てを地域内で完結できる“循環型の経済圏(農村社会)”を目指しています。
(山形大学HPから引用)
 
 

最後に、食に関する仕事に興味がある方へのメッセージをお願いすると、佐藤さんはこう答えた。
 
「私が酒田のラーメンをずっと続けてこられたのは、好きとか楽しいとか興味があるというのが原点にあるからです。自分が好きなことや興味のあることを仕事に選んで、それをつきつめていけば、自ずと仕事になっていきます。
仕事をしていて苦難やハードルにぶつかったとき、お金や生活を優先してやりたいことを諦めていては、前に進めません。
自分にとってのやりがいを忘れないでほしいです。」
 
【企業情報】
社名:株式会社 花鳥風月
場所:〒998-0875 山形県酒田市東町1丁目8-11
電話:0234-22-8500
公式サイト:https://kachou.jp/

 

 

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