「ひと」Cheer!! 〜 「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜

<Cheer !!〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>

vol.13 –古民家カフェ わだや 店主 林千歩さん

「食の都庄内」を支える若手料理人やスタッフ、生産者たちの人となりや想いを掘り下げ、庄内の"食"に関わる仕事の魅力をお伝えするシリーズ<Cheer !!(チアー)~「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに~>。
今回は、遊佐町にある「古民家カフェわだや」店主の林千歩さんを訪ねました。
 
林さんは遊佐町に移住し、「遊佐町空き家再生プロジェクト」の第一弾となる「古民家カフェわだや」を2018年5月にオープン。遊佐の食材を使ったおやきを提供しています。

高校生のときはそれほど食に興味がなかったという林さん。開店から6年がたち、農家のお手伝いや味噌づくりグループへの参加など、食へのつながりを深めていく中で感じていることをお聞きしました。

※2024年6月に取材した内容となります。

 

◇遊佐の食材を使った優しい「おやき」

「あんこ」と「ズッキーニの味噌バター炒め」のおやき 。

築75年の古民家に割烹着姿がよく似合う。林さんが「古民家カフェわだや」を開店して丸6年。遊佐の食材を使った優しい味のおやきは、林さんの穏やかな人柄とともに地域の人に愛されている。

営業日の朝に生地を作り、仕込んでおいた具材を包んで、20分じっくり蒸す。今では「あんこ」「遊佐カレー」「ばんばどり」など6~8種類のおやきが並ぶ。

最近こだわっているのは、必ず1種類は味噌を使うこと。取材日の一品は「ズッキーニの味噌バター炒め」。味噌は、林さんにとって大切な思い出の味であり、現在進行形でお店とともに育てている味でもある。

 

◇海外へ出たことをきっかけに、日本各地で住み込みバイト

緑のふるさと協力隊員として高知県越知町で稲刈りのお手伝い。

高校まで尾花沢市で過ごした林さん。食で思い出すのが、お母さんのおむすび、そして祖母が作ってくれた味噌やあんこ。「祖母はいろいろ作る人で、自分は食べる人。祖母がたけのこ採りから帰ってきたら、皮むきを手伝って、料理してくれたものをおいしく食べるという幼少期でした。」

神戸大学に進学すると、簡単に海外に行ける立地に衝撃を受けて、バイト代をためては海外へ。しかし海外に出たからこそ日本を知らないことを痛感し、3年ほど、旅館や農家の住み込みバイトで日本各地をめぐることに。北海道美幌町の農家では2か月間、キャベツや大根、ジャガイモ、ビートの収穫を手伝った。そして、沖縄の民宿で働いた経験が「宿を持ちたい」という夢を生んでくれた。

東日本大震災をきっかけに帰ってきた山形では、会社勤めの経験を積もうと、蔵王の温泉施設を運営する会社でドライフルーツの新規事業に3年間携わった。

 

◇遊佐に移住、お店を開くことに

店内に入ってすぐ。黒板には今日のメニューが。

2015年、初めて遊佐町を訪れた。当時、焼酎の水割りにはまっていた林さんの目的は、湧水めぐり。場所が分からないでいたら、立ち寄った温泉施設「あぽん」で出会った地元の女性が、湧水まで連れて行ってくれた。遊佐の自然と人の魅力に、惹かれた瞬間だった。

山好きなパートナーの晶さんにぴったりの遊佐町地域おこし協力隊の募集もあり、移住を決めた。数か月後、事あるごとに「宿を持ちたい」「店を持ちたい」という起業願望を話していたのが町の関係者の耳に入ったのか、DIYした空き家のオーナーを募集する「遊佐町空き家再生プロジェクト」の話が舞い込んだ。

「まだ遊佐で暮らしていけるか分からないなと思っていた段階。お店を始めたら数年は居る覚悟が必要だから悩みました。後押ししてくれたのは家族の応援と、お世話になった70代のおじいちゃんからの結婚祝いの手紙。すごくいい言葉をくれる方で、手紙には『温室の花であるよりも、道端の花であれ』。その言葉を見て『やろう』って。」

 

お店の敷地内にはこんこんと湧水が流れている。

飲食店で調理をメインに働いた経験はなかったが、唯一、祖母に教えてもらったあんこ作りは自信があった。あんこを使って、お昼ご飯にもおやつにもできるもの。いろんなメニューを試して、作っていて楽しかったのがおやきだった。移住前、地元の人に「遊佐の食材を食べられる場所はない」と聞いた驚きから、遊佐の食材を使うことは決めていた。
 

祖母に教えてもらったあんこがぎっしりつまっているおやき。

ちなみに、湧水を案内してくれた女性とは移住して1週間で再会できた。バイト先の農家でその女性の話をしたら、なんとご近所さんだったのだ。「今も1年に1回はお店に寄ってくれて、あぽんでもよく会います」と話す林さんは、とてもうれしそうだ。
 
◇農家を手伝うことで、食材をめんごがるように
今年から営業日を1日減らして、農家のお手伝いに行っている。お手伝い先の伊藤大介さんは米も野菜も作る農家で、先週はウド畑の来年に向けた準備、今週はカボチャの植え付けをした。

「これまで収穫しか経験がなかったので、耕したり種をまいたり、いろんな大変な作業を経て野菜ができるんだね、大切にしないといけないと、しみじみ感じるように。食材を『きれいだね』ってめんごがって(かわいがって)から、無駄なく使うようになりました。」
 
麹から仕込む2年熟成味噌づくり

おやき用に、麹から仕込んだ味噌をお店の押し入れで2年熟成させている。

そして、お店が冬休みの間は、伊藤大介さんの奥様・仁美さんが代表を務める「かあちゃんふれあい加工倶楽部」のメンバーとして、麹から作る2年熟成味噌を仕込んでいる。もともと自家製味噌を作るほどの味噌好き。移住してきた年に前代表の阿部玲子さんに誘われて「やりたいです!」と即答した。

「2021年春に代替わりするまではお手伝い感覚だったから、玲子さんにノウハウを教えてもらって勉強して、今年はほぼ自分たちだけで仕込むことができました。米と大豆を使って一から仕込むから『育てている』感覚がすごくある。」

 

グループで販売している「あかり味噌」。ラベルの色は、仕込んだばかりの味噌の色なんだとか。

◇この場所を「育てていく」年に

起業するという夢は「わだや」で叶った。「20歳のころから、自分の店を持ちたいというぼんやりした夢をしょっちゅう声に出していました。それをいろんな人が覚えていて、何かあったときにチャンスをくれた。自分の思いを言葉にしていくことは大事だなと思いました。」

取材日のほんの数日前、手つかずだった屋根裏部屋を片付けて、6年ぶりにスペースを開放した。物を循環させようと、お片付けで手放したものを並べ、気に入ったものがあれば募金して持ち帰ってもらっている。これからどんな場所にしていくか、思案中だという。「3年続けばいいなと思って店を始めて、続けられたのは、支えてくれたお客さんのおかげ。だからこそ、この場所をもうちょっと育てていきたい。」

古民家と味噌。どんな風に育って熟成していくのか、楽しみだ。


【店舗情報】
店名:古民家カフェ わだや
場所:山形県飽海郡遊佐町吉出字和田3-5
営業時間:11:00~18:00 ※変則営業あり
定休日:水・木・金 ※冬季(1~2月)休業
電話:0234-31-8650
公式サイト:https://wadaya.storeinfo.jp/


文・写真:金井由香

 

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