「ひと」Cheer!! 〜 「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜
<Cheer !!〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>
vol.15 –「サスティナ鶴岡」代表/「庄内ざっこ」料理人 齋藤翔太さん
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「食の都庄内」を支える若手料理人やスタッフ、生産者たちの人となりや想いを掘り下げ、庄内の“食”に関わる仕事の魅力をお伝えするシリーズ<Cheer !!(チアー)〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>。今回は、食育活動団体「サスティナ鶴岡」代表で、鶴岡市にある日本料理店「庄内ざっこ」料理人の齋藤翔太さんを訪ねました。
齋藤翔太さんは、2020年に鶴岡市が開催した「鶴岡No.1次世代料理人決定戦」で初代グランプリに輝いた、若手料理人のホープ。料理人や生産者らが一緒に食育活動に取り組む団体「サスティナ鶴岡」の代表を務めています。鶴岡市では今、翔太さんと同世代の料理人が活躍しています。料理の腕を仲間と切磋琢磨しあい、さらに食文化をつなげていく活動にも取り組む翔太さんに、料理への思い、活動への思いを聞きました。
※2024年11月に取材した内容となります。
◇料理人の働く姿に憧れて 実家は鶴岡の人気日本料理店
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家族みんながそろった「庄内ざっこ」
翔太さんは1983年、齋藤家の三男として鶴岡市に生まれた。1990年と小学校にあがったばかりの頃、両親が日本料理店「庄内ざっこ」をオープン。幼いころから店のバックヤードを手伝っていたが、当時は料理が身近にあったにも関わらず、自分が料理人になるとは露ほども思っていなかった。それは、現在料理人として店で働く三兄弟とも同じだったという。
料理人になると決めたのは、中学生になってから。市内だけでなく、仙台に出向いて家族で外食することが多かった齋藤家。外食先で見た料理人の働く姿に魅せられた。
「カウンター越しにハンバーグを焼くシェフや、仙台にある和食店の親方の姿がかっこよくて憧れでした。高校を卒業したらすぐ修業しようと考え、高校では調理科目を選択していました。」
その言葉通りに庄内総合高校を卒業後、老舗の仙台ホテル(現在は廃業)に和食料理人として就職した。真面目で厳しい親方のもとで、調理を極める仕事にまい進。親方からの「料理は遊び心だ」という言葉が心に刻まれている。例えば、四季を大事にした演出や盛り付けであっと驚かせる。和食の中に洋のエッセンスを取り入れる。遊び心は、庄内ざっこで作る今の料理にも活かされている。
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帰郷した頃の三兄弟。左から修平さん、亮一さん、翔太さん
庄内ざっこが現在地に移転することになり、翔太さんはUターンしてきた。長男の亮一さんは徳島と東京、次男の修平さんは大阪と岡山と、三兄弟それぞれ別の場所で修業したため、それぞれで学んできたやり方や料理法が違い、最初は合わせるのが大変だった。
だが今では、ソムリエであり利酒師でもある亮一さんは国内外のワインや県内外の日本酒を仕入れ、調理では前菜を担当。修平さんは焼き物、食事物を担い、翔太さんは生産者とのつながりを活かして仕入れを任され、煮炊きものやお肉料理などを担当している。得意分野を持ち寄り、力を合わせてお店を切り盛りしている。
移転するとき、店の奥にある活魚水槽を翔太さんが手配することになったが、庄内には活魚業者がいないため漁師さんとつながらないと活魚を仕入れることができない。その時に協力してくれたのが、今も「サスティナ鶴岡」で一緒に活動する鶴岡市三瀬にある旅館仁三郎の伊関敦さんだった。それから徐々に、漁師や農家など生産者とのつながりが増えていった。
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店にある活魚水槽には、庄内浜の魚介や、そのときどきの旬の魚が泳いでいる。
仙台での修業時代は必死で、生産現場とつながることまで考えなかったという翔太さん。Uターンしたからこそ、鶴岡の食材のおいしさだけでなく、人も魅力的なことに気付いた。先輩や同世代の料理人、そして生産者とのつながりが増え、飲み会で「一緒に何かやろうよ」と盛り上がることもあった。
「やはり野菜はおいしいし、料理人のみんながそのおいしい野菜の情報を独り占めしないで、しっかり共有してくれる。オープンだなってすごく思います。」
◇子供たちが食文化を体験する場を 「サスティナ鶴岡」に込めた思い
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鶴岡No. 1次世代料理人決定戦でグランプリになった料理「口細カレイの包み焼き 優しいソースで」
しかし、新型コロナウイルスの蔓延でさまざまな事業が停滞する。そのなかで2021年、料理人コンペティションRED U-35(ぐるなび等が主催)のスピンオフ大会「食のサステナブルAWARD」のことを知る。料理人による食の未来を変革する企画を募っていた。
アイディアは温めていた。子供たちが、生産者と一緒に食材を収穫し、その食材で料理人と調理する。「サスティナ鶴岡」の原案だ。生産者であるワッツ・ワッツ・ファームの佐藤公一さん、元鶴岡食文化創造都市推進協議会職員で生産者や料理人と多くのつながりを持つ合同会社マターナルの小野愛美さんと3人でチームを組んで応募したところ、上位10組に入る金賞に選ばれた。じゃあこれを実現しよう、と動き始めた。
「子供たちに体験させたいっていうのが一番大きかったかもしれないですね。自分たちの世代は磯釣りや芋煮会など、地元の味を知ることができるコミュニティがいろいろあったんですけど、コロナ禍で簡素化していた。食文化は、誰も食べなくなれば終わってしまい、その食材をつくる生産者が困ってしまう。子供たちとともに食の生産や調理が体験できるコミュニティを作って、未来につなげていきたい。」
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子供たちに魚のさばき方を教える翔太さん
2年目から始めた「サスティナ学校」は月2回、会員それぞれの食の現場から食の魅力を伝えるもの。砂丘地でショウガを収穫し、それを使ったコーラシロップを作ったり、鴨の羽むしりと解体をそば打ち体験とセットにしたり。
「それぞれ会員が『こういうことをやりたい』って、アイディアがいっぱいあるんです。海や山といったフィールドもいっぱいあるので、それを考えるといつまでもできるかなって思います。」
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漁師や農家、料理人など食の仕事人たちが、食の未来を見据えて活動している
活動スタートから4年。「初年度に参加した子供たちが、今はスタッフとして手伝ってくれています。感慨深いです。」
リピーターも多く、庄内浜での開催では内陸からやってくる子供も。「今の子供はパックに詰められている魚が一般的で、魚ってどういうものなのか分からない。魚一匹をおろすことで、どういう食感でどういう香りで、どういう味がするのかを感じてほしい。一回食べたら記憶に残って、また食べたいとなる。その体験が必要なんだと思います。」
「サスティナ鶴岡」の活動は、長く続けていきたい。
「お金を出せばできるという活動じゃなくて、皆が公平に受けられる、義務教育のような活動にしていきたいです。「サスティナ鶴岡」がモデルケースになればいいですね。どこの町にも料理人がいて生産者がいるので、町全体で人がつながっていけばできると思います。」
参加した子供たちが食に興味を持って、いつか地元に戻ってくる。そんな夢も広がる。
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料理人としての歩みは20年を超え、高校生に教える立場になった。
母校の庄内総合高校で2020年から外部講師を務めている。自身の高校時代、外部講師として来た故太田政宏シェフ(「食の都庄内」親善大使などを務めた庄内を代表するフレンチシェフ)から、料理の楽しさを教わったことを思い出した。
「太田シェフの教えが土台にあって、「サスティナ鶴岡」につながったのかもしれないですね。まさか自分が同じ立場で教えることになるとは思っていませんでしたが、やっぱり彼があの時に伝えてくれたことを自分もしっかり伝えなきゃいけないと思ってます。」
「食や地産地消に今は興味がなくても、とりあえず家でご飯を作ってみて、そこから気づくこともいっぱいあります。高校生は勉強も大切だけど、いろんな遊びや体験をした方がいい。その遊びや体験が『食』であってもOK。これだけ自然豊かな地域の魅力を、食や料理を通してもっと伝えていきたいです。」
これからも遊び心を胸に秘めて、食と料理を未来へつなげていく。
【店舗情報】
店名:庄内ざっこ
場所:山形県鶴岡市本町一丁目8-41
営業時間:11:30〜14:00、17:00〜22:00
定休日:日曜日または月曜日
電話:0235-24-1613
公式サイト:http://s-zakko.com/
【サスティナ鶴岡】
公式サイト:https://sustaina.tsuruoka.cc/
文・写真:金井由香