「ひと」Cheer!! 〜 「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜

<Cheer !!〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>

vol.16 –SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE 料飲部レストランサービス/唎酒師 佐藤寛己さん

「食の都庄内」を支える若手料理人やスタッフ、生産者たちの人となりや想いを掘り下げ、庄内の“食”に関わる仕事の魅力をお伝えするシリーズ<Cheer !!(チアー)〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>。
今回は、鶴岡市にあるSHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE内のレストラン「MOON TERRASSE」「SAKE BAR」で働く佐藤寛己さんを訪ねました。
 
唎酒師でもある佐藤さんは、日本酒の魅力をレストランサービスという飲食の現場で伝えています。
実は自動車メーカーの元エンジニアという畑違いの分野から食の世界に飛び込んだ佐藤さん。
個人でもインスタグラムでの投稿や日本酒イベントのお手伝いなど、その知識を活かした活動を繰り広げています。
食の魅力を伝えるという接客業の醍醐味をお聞きしました。
 
※2025年1月に取材した内容となります。

「ものづくりで世の中を支えたい」自動車メーカーで技術開発を支援

自動車メーカーの社内イベントで、DJの流す音楽に合わせてボイスパーカッションを披露する佐藤さん

「日本酒の魅力は、地域柄が味に出るところですね。地域の食文化に密着していて、庄内なら魚に寄り添いやすい味わい、村山なら辛口でも濃厚、置賜だとより甘い。山形県内だけでも食文化が違うからこそ、その違いが面白い!」
 
唎酒師として山形の日本酒のおいしさを県内外に伝えている佐藤寛己さんは、1987年の酒田市生まれ。食文化への興味とはほど遠い高校生活を送っていたという。ものづくりで世の中に支えになりたいと思い、酒田工業高校(現酒田光陵高校)から首都圏の自動車メーカーに就職した。先端技術を使った試作品の開発プロジェクトチームの技術支援という仕事にやりがいを感じ、骨を埋める覚悟だった。
 
しかし30歳を目前に転機が訪れる。2017年に山形市で開かれた「第1回山形三十路式」を手伝ったことがきっかけで、地方の現状が気になり始めた。同時期に、首都圏で開かれるUIターンの説明会や県人会などで庄内の人と交流する機会が増えたことで、「地元に戻る」という選択肢を思い描くように。
 
庄内で自分がやりたいことは何だろう。積極的に庄内の情報を集めて人と交流する中で、その答えを探した。もともとクラフトビールを飲み歩くほどのお酒好き。山形の日本酒について深掘りしたところ、地元で愛される銘柄はたくさんあるのに、首都圏では一部の有名な銘柄を除いてほとんど知られていなかった。もったいないと思った。
 
「山形の日本酒や食文化について、県外の人はもちろん、地元の人もまだまだ知らないのではと感じました。地元の人が誇りに思えるように、山形の日本酒の魅力を伝えることはできないだろうか、と。」

 

 

32歳でUターン 唎酒師として飲食サービスの世界へ転身

唎酒師の認定証書

方向性を模索していた2年ほどの間に日本酒への思いが募り、唎酒師の資格を取得した。32歳となった2019年に酒田市の「合同会社とびしま」へ転職。日本酒の知識を活かし、SUSI&SAKE BAR「SHAKE」や炭火焼き居酒屋「炭かへ」で店長を務めた。
 
「当時は、お客様に日本酒にまつわるストーリーや酒蔵、取り扱っている酒販店などの情報を話して、日本酒を通して酒田や庄内の魅力も伝えられるように心がけていました。店や人とのつながりが、酒田を再訪するきっかけになればという思いからでした。」
 
技術開発というものづくりの現場から、食の魅力を伝える飲食業へ。まったくの畑違いのチャレンジに、迷いはなかったのだろうか。
 
「もちろん怖さはありましたが、出たとこ勝負で挑めば自分らしさが出せると思っていました。メーカー勤務時代に培われた、チャレンジすることの大切さが活きました。失敗を恐れて何もしないより、失敗から学びステップアップしていくことが大事なんです。」

 

インスタグラムの「日本酒瓶×風景」投稿で話題に

楯の川酒造の「楯野川 純米大吟醸 無我レッド」を、国指定史跡で平安時代の出羽国の国府跡といわれている城輪柵跡(酒田市)で撮影。おそろいの赤色が気に入っているそう。

二度目の転機となったのは、コロナ禍で始めたインスタグラムの「酒瓶×風景フォト」だった。日本酒の瓶を、その日本酒が生まれた地元の風景に置いて撮影し、投稿した。外出や旅行だけでなく、酒席も制限される重苦しい空気感の中で、日本酒と山形の魅力が伝わる清々しい画像が話題になった。最新投稿はNo.86と、現在も投稿は続けている。
 
「日本酒について調べていくと、酒蔵が地元の祭りに酒を献上していたり、酒米として知られる亀の尾発祥の神社が建立されていたりと、地元の歴史と深いかかわりがあることに気付きました。インスタグラムをきっかけに、地元の人も観光客も、画像に映る日本酒と一緒に地元の風景や建物、歴史にも興味を持ってもらいたいと思って投稿を始めました。」

東京・六本木ヒルズで開催されたCRAFT SAKE WEEK2023に参加。

実際にテイスティングしたお酒の軽妙なレビュー投稿も、癖になると評判だ。どうやら、中学時代から始めたアカペラで、社会人サークルでのテレビ番組「ハモネプリーグ」出場経験もあるという趣味の音楽活動が、人を引き付ける文章表現の源らしい。
 
「あまり日本酒のレビューでは見かけない、ビブラートやフォルテシモといった音楽用語をよく使うので、面白いと興味を持たれます。例えば、ジャンル分けで今風の味わいならモダンテイスト、昔ながらの味ならクラシック、懐かしい味わいに今風の酸味が加わったらモダンクラシックといったワードを組み合わせて紹介しています。」
 
現在は「流浪唎酒師さてぃ」と名乗り、インスタグラムでの投稿のほか、庄内や首都圏で開かれる日本酒イベントで案内人を務めるなど、個人でも活動の場を広げている。

 

レストランサービスという、生産者の思いを伝える仕事の大切さ

スイデンテラスのSAKE BARで提供している日本酒カクテル「サムライ・ロック」。日本酒にライム果汁とライムを合わせた、スッキリとした味わいのカクテル。

2023年秋からは、SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(スイデンテラス)内のレストラン「MOON TERRASSE」などで飲食サービス業務を担っている。庄内のお酒を求める観光客には、地元の人間だからこそ知っている銘柄を勧めている。
 
メーカー勤務時代に消費者との接点はなかったが、プロジェクトチームのメンバーも社内の次の工程のメンバーもお客様として捉え、意図や思いを伝えるコミュニケーションを大切にしていた。その経験が、今の仕事に役立っているという。
 
「研究開発職として生産現場の源流を経験したからこそ、生産者の声を伝える「飲食サービス」という現在の仕事の大切さを感じています。農作物を育ててきた農家さんの思い、食材や郷土料理を培ってきた地域風土への思い。庄内で積み重ねられてきたストーリーをお客様に伝えて、新しい発見や驚きを感じてもらえることが私のやりがいとなっています。」
 
これからの目標を尋ねた。「生産者の思いをもっと知って、もっと伝えられるようになりたいです。ゆくゆくは、日本酒をおすすめしてもらいたい、庄内の食に関する知識を得たいというお客様が、お店を訪ねてくるようになれば。この場所から、庄内の魅力を伝える役割を担っていけたらと思います。」

 
 
地元の魅力に触れて食のスペシャリストを目指してほしい

田んぼに浮かぶホテル内のレストランMOON TERRASSE。月山を望む店内で、庄内の食材を使った料理が楽しめる。

畑違いの分野へチャレンジしたことに「怖さはあった」と話していたが、今の佐藤さんの笑顔は仕事への充実感に満ちている。食の仕事を目指す高校生に伝えたいことは?
 
「一度地元を離れて思ったのは、自分たちがいま庄内で食べている食材や料理は当たり前の存在ではないということ。ラーメンも、お米も、お水も、郷土料理も、外から見るととても魅力的で誇れるものです。若い頃に、それを知ってほしいと思います。」
 
食の仕事と一言にいっても、生産現場から輸送、加工、接客などジャンルは多彩だ。その中から、佐藤さんは日本酒とそれが生まれた庄内の魅力を、生産者の思いとともにお客様に伝える接客業を選んだ。
 
「食の仕事に就くと、食を通して地元のことを知ることができます。ぜひ気になったことを調べてみてください。その中で何かに特化して突き詰めて、その分野の食のスペシャリストを目指してほしいです!」

 
【店舗情報】
店名: SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE レストラン「MOON TERRASSE」「SAKE BAR」
場所:山形県鶴岡市北京田字下鳥ノ巣23-1
電話:0235-25-7424
公式サイト: https://suiden-terrasse.com/
 
営業時間:
●レストラン「MOON TERRASSE」
朝食 6:30 ~ 9:30(LO 9:00)
ランチ 11:30 ~ 14:00(LO 14:00)※毎月の営業日は公式サイトをご確認ください
カフェ 14:00~ 17:00(LO 16:30)※営業日は金・土・日
ディナー 17:30~22:00(LO Food21:00 / Drink 21:30)
●「SAKE BAR」
21:00~23:00(LO 22:30)※営業日は日・月・木・金・土
 
【インスタグラム情報】
流浪唎酒師さてぃ @saty1008



文・写真:金井由香
 
 

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