「ひと」Cheer!! 〜 「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜

<Cheer !!〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>

vol.20 – 本竹商店 本間圭輔さん

「食の都庄内」を支える若手料理人やスタッフ、生産者たちの人となりや想いを掘り下げ、庄内の“食”に関わる仕事の魅力をお伝えするシリーズ<Cheer‼(チアー)〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>。今回は、酒田市で「分福ベイク」を製造販売する本竹(ほんたけ)商店の本間圭輔さんを訪ねました。

老舗の燃料販売店という本業の傍ら、規格外大根を使ったしっとりやわらか食感のクッキーを開発。発売までに7年を費やした情熱の裏側には、地域の未来に希望をともす強い信念がありました。贈る人ももらう人も笑顔にする。そんな「お福分け」の物語を紐解きます。

※2026年1月に取材した内容となります。

 

◇大根でクッキー!?と驚きの地方発スイーツ

規格外大根を活用した「分福ベイクR やわ焼きクッキー くるみ&スパイス」。独自の製法により、保存料を使わずしっとりやわらかな食感を実現した。

「えっ、大根が入っているんですか?」商品を手に取った誰もが、まずその意外性に驚く。酒田市の燃料店・本竹商店が手掛けるクッキー「分福ベイク」のR(リフォルム)シリーズ。3種類のフレーバーのうちのひとつ「くるみ&スパイス」には、地域の農家で規格外として廃棄されるはずだった大根が使われている。残りのフレーバーにも、本来なら捨てられてしまうりんごや洋ナシのジュースの搾りかすを使用。しかも規格外品は製品に対して約25%を占めている。

一般的にフードロス対策を謳う菓子は、素材の味を前面に押し出すことが多いが、本間さんのアプローチは全く異なる。
「大根の味を主役にするのではなく、その機能を活かしました。大根の繊維質には高い保水力があり、それを活かすことで、独特のしっとりしたやわ焼きの食感が生まれます」

口に運ぶと、まずはスパイスの爽やかな香りが広がり、後からくるみの香ばしさと、どこか懐かしい優しい甘みが追いかけてくる。大根特有の臭みや辛味は感じられず、むしろその保水力がクッキーの個性になっている。
酒田市在住のイラストレーター・rikkoさんが描いたパッケージも話題で、Webサイト「おとりよせネット」の『おいしいギフトアワード2025パッケージ部門』で銅賞を獲得した。

分福ベイクを開発した本間さんの本業は、燃料店の跡取り息子。事務所の裏に建てた工房で、本業の合間を縫って一人でクッキーを焼き、原料となる規格外野菜の集荷も自らハンドルを握って農家を回る。地域を盛り上げるためのタネ探しから始まった課外活動が、ようやく花開き始めた。

 

◇江戸時代の水運業から始まる燃料販売店の八代目

酒田市船場町に拠点を構える本竹商店。地域の暮らしを支え続けてきた。

最上川の河口に位置し、かつて北前船の寄港地として栄えた港町・酒田。本竹商店は、その港近くに事務所を構える。同店の歴史は古く、江戸時代には廻船問屋を営んでいたという。戦後に燃料販売へと舵を切り、現在は灯油やプロパンガスの供給、住宅設備の販売設置などを主軸に、地域のライフラインを支えている。本間さんはその歴史を背負う、八代目となる予定だ。

幼い頃から家業を継ぐという意識は芽生えていた。親から強制されることは一度もなかったが、自然とその道へ進んでいく。進学先には、地元から通える山形大学農学部を選択。在学中には、ビールを醸造した後に残る酵母が体にどのような影響を与えるかという研究に没頭した。この未利用の副産物を有効活用するという視点が、のちの分福ベイクのストーリーにつながっていった。

 

◇メーカーで菓子開発の会社員を約7年間務める

新潟県の食品メーカーで開発に従事していた頃の本間さん(写真右)。ここで培った知識が、現在のブランドの礎となっている。

大学を卒業すると、すぐに家業に入るのではなく、新潟県に本社を置く大手食品メーカーに就職した。一人の会社員として、商売の厳しさと面白さを知るためだ。そこで配属されたのが、ビスケットやクッキーの商品開発部門だった。

新商品の企画から、市場ニーズのリサーチ、試作、さらにはデザインのディレクション、工場の製造ラインの設計まで、消費者に届く商品を生み出すプロフェッショナルの現場で約7年間、働いた。
「企画の練り込みが甘いと、どんなに良い素材を使ってもお客様には刺さりません。逆に、徹底的に作り込めば、かけた労力の分だけ価値として認めてもらえる。自分が生み出したものが形になり、誰かの手に渡る。そこに、仕事の本質的な面白さを感じました」

 

◇30歳で戻ってきた故郷、地域の現状を間近にして

農場の隅に山積みされた規格外の大根。

30歳という節目を迎え、故郷・酒田へ。当初は新規事業など全く考えておらず、まずは燃料店での仕事を覚えることに必死だった。しかし、毎日の配達や営業で地域を回るうちに、ある危機感が募った。

人口減少が加速する地方において、地域のインフラを支える商売は、地域そのものが元気でなければ成り立たない。友人たちと集まるたびに「酒田の魅力を外に発信できる、新しい何かが作れないか」と語り合うようになった。

そんなある日、農業を営む大学時代の友人を訪ねた本間さんは、衝撃的な光景を目にする。農場の隅に山のように積み上げられた大根。そのすべてが、規格外という理由だけで廃棄されていた。
「規格外品という知識としては知っていましたが、目の当たりにした時のインパクトは凄まじかった。これほど大量に捨てられてしまうのか、と。その時、自分の中にあった菓子作りの知識と地域の課題解決策が結びついたんです」

 

◇開発・発売まで7年かけて商品化

事務所裏のコンパクトな工房。本業の合間をみて、ひとりで焼いている。

規格外品を活用するのは、思ったほど簡単ではなかった。最大の問題は品質のばらつき。
「規格外といっても、形が悪いだけではありません。育ちすぎて大味なもの、生育不良で硬いもの、虫食いがあるもの。原料の段階で味が一定ではない。これをそのまま使えば、お菓子としての品質も不安定になってしまいます」

そこで行き着いたのが、素材の機能を活かす方向性だった。大根の繊維がもつ保水力を利用して、他では作れないしっとりやわらか食感のクッキーを作る。

しかし更なる問題が。水分量が多いということは、カビや菌が発生しやすく、賞味期限を確保するのが極めて難しいことを意味する。保存料や添加物に頼らず、独自技術だけで全国へ発送できる品質を維持する。検証と失敗を繰り返し、納得のいく技術を確立するまでに5年の歳月が流れていた。
「会社員時代の経験が支えになりました。ゴールが遠くても、条件を一つずつ変えて検証していけば必ず答えに辿り着ける。その経験があったから、折れずに続けられました」
2022年、事業再構築補助金の採択を受け、念願の工房を建設。そして2024年1月、最初のひらめきから7年という月日を経て、「分福ベイク」が誕生した。

 

◇独特なフレーバーは、素材の短所を個性にするために

地域食材の「お福分け」から名付けた分福ベイク。人の手から手へ渡っていく贈り物として、パッケージにも思いが込められている。

開発当初は、大根の臭みや辛味をどう隠すかに苦心していたが、どんなに工夫しても大根の気配は消えない。
「それなら、いっそのこと開き直って、その辛味や香りを活かそうと考えました。そうして思い浮かんだのがジンジャークッキーです。大根の持つわずかな辛味に、シナモンやジンジャーを合わせる。すると、大根が悪さをするのではなく、全体の奥行きを支える隠し味として機能し始めたんです」

こうして生まれた「くるみ&スパイス」に加え、Rシリーズはりんごの搾りかすを使った「カカオ&ラムレーズン」、洋梨の搾りかすを使った「ソルト&キャラメル」と個性的な味わいのシリーズだ。

一方で、より幅広い層に手に取ってもらうため、山形県産の原材料を使った「L(Local)シリーズ」も展開。山形県産小麦粉&全粒粉を使った「地粉&バター」、庄内米のライスパフ入り「クランチ&ココア」、庄内米の米ぬかを活かした「米ぬか&ごま」と、王道の味わいも揃えた。

 

◇持続可能な経済性こそが、サステナブルの本質

「燃料店もお菓子も、地域を支えるという点では同じ」と語る本間さん。

本間さんが分福ベイクで最も大切にしているのは、単なる環境保護ではなく、持続可能な経済性だ。
「環境にいい、エコだ、というだけでは長続きしません。便利さや美味しさ、そして買い続けられる価格設定。その経済的な持続性があって初めて、本当の意味でのサステナブルと言えるはずです」
例えば、個包装のコストを抑えるため、クッキーのサイズは一般的なものの2〜3倍という大判サイズ。大きくても食べきれる、満足感のある生地にもこだわった。

2025年1月には、前年の豪雨で被災したメロン農家を支援するため、ガバメントクラウドファンディングを実施。現在、被災メロンを使った新たなクッキーの開発に挑んでいる。「メロンとヨーグルトを組み合わせた二層構造という、新しい技術に挑戦しています。今年の夏までには、皆さんの元へ届けたいですね」

 
◇自分の目指す「ナンバーワン、オンリーワン」を生み出せ
最後に、これから何かを始めようとする次世代へのメッセージを聞いた。

「私は『ナンバーワンかオンリーワン』であることを大事にしています。人は2番目に欲しいものは買いませんから。一朝一夕にはいきませんが、酒田のラーメンのように、ここでしか食べられない、というオンリーワンを生み出す努力は続けるべきです。目的を見失いそうになった時、あるいは失敗に直面した時。自分はなぜこれをやりたいのかという行動原理を掘り下げていけば、自ずと目指すべきオンリーワンの場所が見えてきます」

燃料店から生まれたクッキーが、酒田という土地の未来を照らす灯火のようだ。

【店舗情報】
店舗名: 本竹商店
場所:山形県酒田市船場町1-6-8
営業時間:9:00~17:00
定休日:日曜日・祝日、年末年始、※冬季間以外は土曜日も定休
※分福ベイクのお問い合わせは✉bunbukubake@ymail.ne.jp
 
 

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