「ひと」Cheer!! 〜 「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜

<Cheer !!〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>

vol.8 –ト一屋 齋藤竜彦さん

「食の都庄内」を支える若手料理人やスタッフ、生産者たちの人となりや想いを掘り下げ、庄内の“食”に関わる仕事の魅力をお伝えするシリーズ、<Cheer !!(チアー)〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>。
第八弾である今回お話を伺うのは、昭和23年創業、「うまいものならなんでも」のキャッチフレーズで酒田市に展開するスーパー「ト一屋」の青果マネージャー、齋藤竜彦さんです。
 
齋藤さんはト一屋の青果部門のバイヤーとして、主に野菜や果物、それらの加工品などの買い付け・仕入れを担当。毎朝市場に行くのはもちろん、時には自ら生産者の元に赴き商品の発掘も行うなど、食材を消費者の皆さんにお届けするための接点づくりの担い手として庄内の食を支えています。
 
今回はそんな齋藤さんに、バイヤーになるに至った経緯や、仕事をする上でのやりがいについてお話を伺いました。
 
※2023年2月に取材した内容となります。

 
◇元々は経理志望だった
齋藤さんは1978年(昭和53年)、酒田市にて3人兄妹の長男として生まれた。幼い頃から特にこれといった夢はなかったが、県立酒田商業高等学校(現県立酒田光陵高等学校)に進学したことをきっかけに経営に興味を持つ。一度は庄内の外に出てみたいという思いもあり、卒業後は仙台にある東北電子計算機専門学校に入学し、経理を学ぶ。
齋藤さんの実家は、お米とさくらんぼなどを生産する農家。両親からは特に農家を継げとはっきり言われることはなかったが、酒田には帰ってこいと言われていたため、2年間の専門学校生活を経て20歳の時に再び庄内に戻ることに。経理分野で仕事を探していたところト一屋の求人が目に飛び込み、1998年(平成10年)に新卒として入社した。

 
◇唯一“生きているモノ”を扱う部門へ

ト一屋入社時の写真(前列左端が齋藤さん)

入社後、経理に配属される…と思いきや、齋藤さんが担当したのはまさかの青果部門。最初に着任したのはみずほ通り店だった。
店舗の青果担当の仕事は、品出し、鮮度のチェック、そして顧客応対。最初の頃は先輩社員についてもらいながら、朝一番に陳列されている商品をチェック。傷んでいるものをはずして入ってきたものを入れるという作業を繰り返しながら、少しずつ食材を見る目を養っていった。

「入社したばかりの頃、当時の青果マネージャーが野菜を指さし『これ、生きてるか死んでるかどっちだと思う?』と聞いてきて、『死んでるんじゃないですか』と答えたんです。そしたらバカヤローと言われて(笑)。店の中で唯一、生きてるモノを扱っているのが青果部門なんですよね。」

当時のことを、齋藤さんは笑いながらこう振り返る。
 
みずほ通り店の後は、高見台店、新橋店と合計3店舗で青果部門を担当。当初希望していた経理をやれないことへの不満は特になく、むしろやりがいが生まれたという。

「お客さまにおすすめを聞かれることがよくあって。すすめたものを後日美味しかったと声をかけてもらえると嬉しかったです。そのうち、顔なじみになってくると『兄ちゃん、今日何食べればいい?』って聞かれるようになって、おすすめのものを直接買い物カゴに入れてあげたり。お客さまとのこういうやりとりが面白くて、“自分のファン”を作っていきたいなと思いながらお客さまと接するようになりました。」

こうして約10年ほど店舗で経験を積んだのち、齋藤さんが30歳の頃、現在担当する青果センターへと配属された。

 
◇人との繋がりを大切に
青果センターのバイヤーの朝は早い。朝3時頃に三川町にある市場(公設庄内青果物地方卸売市場)に出向き、仕入れや店舗に納品するための仕分けを行い、8時頃青果センターへ帰社。店舗向けのお買い得情報などの作成や、各店舗からのオーダーの取りまとめ、その他事務作業などを行う。
 
バイヤーにとって一番避けなくてはならないのは「モノがない」という状態。特に冬の時期などは、交通状況によって仕入れ先から商品が届かないということもあるため、庄内近郊の天気はもちろん産地の天気を注意深く見ながら、万が一配送が遅れた時のために少し多めに仕入れたりと、様々な状況を加味して判断をしなければならない。そのため、経験を積むのはもちろんのこと、必要な時に仕入れができるよう人と人との関係性を築くことがとても重要だ。
 
最初の頃は先輩と一緒に市場に行き顔を覚えてもらうことから始まり、次第に良い生産者さんを紹介していただけるようになった。時には自ら全国各地に足を運び、生産現場を見て仕入れを判断することもあるという。バイヤーとは、商品だけでなく“人”に興味がある人にこそ向いている職業なのだと感じた。

 
◇「ト一屋の◯◯がうまい!」を目指して

今回私たちは、齋藤さん、青果物卸売業を営む株式会社 庄果の佐藤さんとともに、生産しているキャベツを全量ト一屋にて販売しているという酒田市黒森地区の農家・酒井明さんのもとを訪ねた。
 
キャベツはスーパーにとって年中欠かせない商品。様々な産地で様々な品種が栽培されているが、硬かったり、甘みに欠けるものも少なくない。齋藤さんがおいしいキャベツを探していたところ、佐藤さんを通じて紹介されたのが酒井さんだった。
通常キャベツは種まきから3か月で収穫できるが、酒井さんのキャベツはハウスの中で6か月かけて栽培。寒さで甘みの増す冬の期間を経ることで美味しさが増し、生でもおいしい甘くて柔らかいキャベツが育つのだという。
こうして作られたキャベツは「酒井さんのやわらかキャベツ」という名前で、1月上旬から3月中旬までに月、金、土曜日にト一屋新橋店、みずほ通り店で販売している。

 

全国的にキャベツが安く、県外産が1個100円で販売されている時でも、ト一屋では「おいしいものをお客様は求めている」と信じて酒井さんのキャベツを適正な価格で販売している。そして、実際に良く売れているという。

「野菜の販売は価格だけでないと強く感じた。」と、庄果の佐藤明さんは話す。また、生産者の酒井さんも、「お客さまからのおいしいという声がト一屋さんを通じて伝わってきて、もっと良いキャベツを出荷したいというやる気に繋がっている」と、ト一屋での販売が農家としてのモチベーションアップにつながっていることを話してくれた。

 

左から:生産者の酒井さん、ト一屋齋藤さん、庄果佐藤さん

「ト一屋の青果は全国から仕入れているため、庄内で生産されている商品は年平均で2割ほど。できれば、おいしいものを作ってくれる地元の生産者さんともっと繋がっていきたいと思っています。今後は若手の農家の方とのつながりを強化して、酒井さんのように全量をト一屋にて販売することで農業の安定化につなげるとともに、“ト一屋でしか売っていない”商品を増やして行けたらよいですね。」と、齋藤さん。
 
青果を仕入れお客様に届けることを通して、農業、そして食の未来を支えていくことができる。バイヤーという仕事の奥深さを垣間見た気がした。

 
最後に、食に携わる仕事に興味がある方へのメッセージをお願いすると、齋藤さんは笑顔でこう答えた。

「食に興味があるなら、まずは色んなものをたくさん食べてみて。自分がおいしいと思ったものを販売したいなら胸を張って販売したらいいし、作りたいならどう作りたいか考えてつきつめていってほしい。おいしいものが出来たら、その時はト一屋で買いますから。」
 
【企業情報】
社名:株式会社 ト一屋
場所:〒998-0875 山形県酒田市東町2-2-1
電話:0234-22-6011
公式サイト:http://www.toichiya.co.jp/

 

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