「ひと」Cheer!! 〜 「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜

<Cheer !!〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>

vol.9 –株式会社 金龍 遊佐蒸溜所 齋藤美帆

「食の都庄内」を支える若手料理人やスタッフ、生産者たちの人となりや想いを掘り下げ、庄内の“食”に関わる仕事の魅力をお伝えするシリーズ、<Cheer !!(チアー)〜「食の都庄内」を舞台に輝く人からあなたに〜>。
第9弾である今回お話を伺うのは、酒類の製造・販売を行う株式会社金龍の遊佐蒸溜所でウイスキーの製造を担う齋藤美帆さんです。
 
齋藤さんは入社して間もない2017年にウイスキー部門の唯一の立ち上げスタッフに抜擢。手探りの状態から試行錯誤を重ね、2022年に山形初のジャパニーズウイスキー「YUZA シングルモルト」の発売へとこぎつけました。
 
今回はそんな齋藤さんに、ウイスキーの製造に携わることになったきっかけや、そのやりがいについてお話を伺いました。
 
※2023年3月に取材した内容となります。

 
◇何かを作る仕事をしたかった
1994年(平成6年)、酒田市生まれ。飛島出身でイカ漁師の父と母のもと、齋藤さんは2人姉妹の長女として育った。
幼い頃は特に将来の夢のようなものはなかったが、酒田西高校在籍中、生物の授業が一番好きだったため山形大学農学部に進学、植物遺伝学の研究室に入った。大学時代は旅行でいろいろな場所に行ったりもしたが、地元にいるときが一番ほっとすると感じていたため、就職活動時は地元の企業を探すことに。合同企業説明会に参加し話を聞くうちに、お酒が好きだったこともあり酒造りの会社に興味を持った。中でも金龍の工場見学をした際、ラインが動いているのを見て「やってみたい」と思い、入社を決めたという。

 
◇入社半年後に突如訪れた転機
2017年に入社後、しばらくの間焼酎の製造や事務をやっていた齋藤さん。しかし、半年くらいたった頃に、突如「ウイスキーをやってみないか」と声がかかる。
 
当時、会社の主力事業である焼酎は9割以上が県内で消費されており、経営陣には、県内の人口がどんどん減っていく中でこれから先細りしていくのではないかという危機感があった。何か焼酎以外の新しい事業の柱がほしいと考えていた頃、ちょうど国内のハイボール人気や海外でのジャパニーズウイスキー人気に後押しされウイスキーの消費が増え品薄状態になっていたこと、ウイスキーの製造を行う埼玉県秩父市の株式会社ベンチャーウイスキーが小さな蒸留所にもかかわらず世界的な評価を受けたことも後押しして、「ウイスキーならば県内だけでなく全国、海外にも販売していけるのではないか」という話になったという。
そこで、「蒸留所準備室」の立ち上げスタッフとして入社してまだ間もない齋藤さんに白羽の矢が立ったのだ。
 
「当時はウイスキーは飲んだこともなかったのですが、面白そうだと思って二つ返事でやりますと答えたんです。よくよく聞いたら、一人しかいない部署でした。」
当時のことを振り返り、齋藤さんは笑いながらこう答えた。

 

齋藤さん左から2番目 写真を一部加工しています

異動後は、とにかく一からウイスキーについて勉強する日々。社内には誰もウイスキーの製造について知る人はおらず、作り方の本を読んだり、ウイスキーの一覧を見てみたりと、手探りの状態からのスタートだった。
2018年の4月には新入社員が2名配属され、蒸溜所準備室のメンバーは3名に。 6月に現在の遊佐溜所が完成、7月にはウイスキーの本場スコットランドにあるウイスキー製造設備メーカー・フォーサイス社からスタッフが派遣され、機器の使い方や製造の仕方について2週間レクチャーを受けた。そして11月には蒸溜所の本格稼働が始まった。
 
 
◇遊佐だからこそ生み出せるウイスキーを
遊佐蒸溜所で作られるウイスキーの原料は、大麦麦芽、酵母菌、そして水。大麦麦芽はスコットランドから、酵母も海外から輸入したものだが、水は鳥海山の伏流水を使用している。実は、ウイスキーの製造には何千リットルもの水を投入するため、美味しい水が手に入ることが必要不可欠だ。また、ウイスキー造りには夏と冬の寒暖差が40℃前後あることが望ましいとされており、鳥海山の伏流水と冷涼な気候がある遊佐の環境は、まさにウイスキー造りにうってつけなのだ。
 
一方で、ウイスキーは同じ造り方をしても同じように出来るとは限らない。大麦の質や気温の変化などで、同じ作り方をしても仕上がりが変わってくる。そんな中で試行錯誤を重ねながら理想のウイスキーを追求することがやりがいだ、と齋藤さんは語る。
 
通常、本場スコットランドのウイスキーは、原酒を樽の中で最低3年間熟成しないと販売してはならない。遊佐蒸溜所ではそれに倣い、本格稼働が始まってから3年3ヶ月後の2022年の2月に、稼働してすぐに出来た原酒の中から良い状態のものを集めて「YUZA シングルモルト ジャパニーズウイスキーファーストエディション2022」を完成させた。1stリリースながらも「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)2022」にて、テイスティングアワード「GOLD」を受賞するという快挙を成し遂げた。
 

「完成したウイスキーをみんなで飲んでみましたが、想像していたより美味しくできあがりました。3年間、自分たちがやっていることが本当に正しいのか、不安に思いながら作っていましたが、いざ発売してみると、いろんな人から『美味しかったよ』と声をかけてもらい、とても嬉しかったです。」と、リリースした当時の気持ちを齋藤さんは語ってくれた。

◇期待感を高められるものを作り続けたい

最初は一人からスタートしたウイスキー部門も、現在では原酒担当が3名、熟成・瓶詰めの担当が4名と、全部で7名体制に。

製造は常に体力勝負だが、うち3名が女性、しかもほとんどが齋藤さんよりも若手だというから驚きだ。その影響なのかはわからないが、女性でも飲みやすくフルーティな仕上がりなのが特徴だ。
 
現在は原酒製造チームのリーダーを務める齋藤さん。
「次なる目標は10年、20年などの年代もののウイスキーを作ること。そのためにも期待感を高められるようなものを作り続けたいです。」と、目を輝かせる。
最後に、食に携わる仕事に興味がある方へのメッセージをお願いすると、齋藤さんはこう答えた。
「庄内の食といえば、農産物や水産物のイメージが強いと思います。それらもとても素晴らしいけれど、それ以外のものもやってみたら意外とのめり込むかも。なので、興味があったらまずは飛び込んでみたらよいのでは。」
 
【企業情報】
社名:株式会社金龍
場所:〒999-8302 山形県飽海郡遊佐町吉出カクジ田20番地(遊佐蒸溜所)
電話:0234-25-5321
公式サイト:https://yuza-disty.jp/


 

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